土佐十八酒蔵図鑑

坂本龍馬をイメージした土佐の酒「美丈夫」 “飲んで旨い酒”を追い求めて完成

有限会社濵川商店 代表取締役社長 濵川尚明さんと営業の北岡隆志さん。

4代目からはじまった銘酒「美丈夫」シリーズ

「美丈夫」の銘柄で知られる濵川商店は、高知県東部、安芸郡田野町に位置しています。土佐湾にも近くを流れる奈半利(なはり)川上流には、高知県の県木「魚梁瀬(やなせ)杉」を有する魚梁瀬地域があり、昔から製材の町として知られています。

代表銘柄である「美丈夫」が造られるようになったのは、4代目であり取締役社長の濵川尚明さんになってから。先代の社長や蔵人の反対を押し切って吟醸酒造りをスタートし、労の末誕生したお酒です。「美丈夫」とは容姿の美しい男性を表し、土佐を代表する坂本龍馬をイメージしています。土佐の酒は淡麗辛口である、という固定概念を覆すような、キレがありながらも、甘みを含んだやわらかい口当たりに、県内外のファンも多いです。

デザイン一新した「美丈夫」シリーズ。金箔の丸マークは、初代・金太郎にあやかる。

以前は新商品が出るたびに、ラベルや書体を変えていたそうですが、4年前にコーポレイト・ブランディングを見直し、ラベルも一新。現在は、土佐の風景写真をモチーフにした統一感のあるスタイリッシュなラベルです。「SAKE COMPETITION」での受賞をはじめ、JALのファーストクラスで提供されるお酒にも3年連続で選ばれるなど、酒質も高く評価されています。

■ 美しい森林地帯からくる超軟水が醸す酒

濵川商店の酒の要となる仕込み水は、奈半利川の伏流水。上流付近は、安芸郡馬路村の勘吉森 という森林地帯であり、日本屈指の多雨地帯。そのため水質は超軟水で、きめ細やかで柔らかい口当たりの吟醸造りに適した水です。

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美丈夫のベースとなる大事な仕込み水。

酒米には、最高峰である兵庫県産山田錦を使用し、さらに、プレミアムなお酒には、特A地区に指定された東条でとれた酒米も使用しています。ほかにも、松山三井やしずく媛、吟の夢など四国産のお米も使用し、その土地ならではお酒も醸しています。さまざまなお米の特徴をうまく捉えて、美丈夫の味を造り出しているのが、濵川商店で13年杜氏を務める、ベテラン杜氏の小原昭さん。杜氏を含め蔵人9人(2019年)、平均年齢が30代後半で若いメンバーで酒造りに取り組んでいます。

手際よく作業にあたる若い蔵人たち。

■ 徹底した温度管理が生み出す味わい

土蔵2階建ての酒蔵は、2014年に有形文化財に登録。古い歴史が刻まれた蔵ですが、お酒の製造や保存のため、温度管理がしっかりできる冷蔵設備が整っているのも大きな特徴です。仕込みタンクは、すべて温度管理のしやすいサーマルタンクを利用。さらに、酒を搾るための自動圧搾機も冷蔵状態で管理され、仕込みから瓶詰めまでの急激な温度変化を防ぎます。搾ったあとは瓶詰めして、瓶のまま1回火入れ。その後、お酒の香味をなるべく損なわないよう、瓶のまま2℃の低温で貯蔵されます。

すべての仕込みをサーマルタンクで管理。

瓶の状態で飲み頃になるまで適度に寝かせるのも「美丈夫」の美味しさの理由のひとつ。そのため、敷地内には大きな冷蔵庫がいくつもあり、何万本というお酒が、出荷の時を待っています。2019年7月に新しい冷蔵庫が完成し、今後も品質を落とさないよう調整しながら、生産量を増やす方向だそうです。

瓶のまま何万本単位で貯蔵できる巨大な冷蔵庫。

海外進出は20年ほど前からはじめていて、現在は、シンガポールやフランス、香港など13カ国へ輸出しています。特にシンガポールの伸びが著しく、イベントでブース出展をするなど積極的に展開しています。一方で、地元ファンづくりのため、飲食店と組んでイベントでお酒を提供するなど、県内消費の拡大にも力を入れています。「やはり、地元の人にもお酒を飲んでほしいですね」と小原さん。地元で愛される地酒、本当に旨い酒を目指し、酒質の向上に取り組んでいます。

[おすすめの一本]

「美丈夫 純麗たまラベル」
きめ細やかでやわらかい口当たりに、控えめな柑橘系の吟醸香が爽やかに香る。米のふくらみがありながら、後口にはシャープなキレも。濃い味付けの料理でも、口を洗い流してくれるので、次の料理を新鮮な気持ちで楽しめる。猫のたまのシルエットがラベルに描かれているのも可愛らしい。濵川商店の定番とも言える人気のお酒。

[蔵内・参考資料]

2階にある麹室は、平成28年竣工と新しい。

少量仕込みのサーマルタンクも。

自動圧搾機も冷蔵された室内にある。

瓶内に異物がないかの最終チェック。

瓶のまま約65℃のお湯につける瓶燗火入れ。

柚子リキュールも海外へ出荷。

改装前の蔵の一部が登録有形文化財に指定されている。

[DATA]

有限会社濵川商店

住所:高知県安芸郡田野町2150
(蔵の概要・歴史 140w)
1904(明治37)年、濵川金太郎により創業。江戸時代から明治にかけて、廻船問屋を営み、木材を京阪神へと出荷していた。創業時の銘柄は、屋号からつけた「濱乃鶴」。1991(平成3)年に誕生した吟醸酒シリーズ「美丈夫」が現在の主力銘柄。日本酒のほか、発泡日本酒や柚子リキュールなども製造している。

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